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何もせずにただ過ごしてしまうには惜しい夜、 −それが、あたら夜− 明けることが惜しいほどの今宵は、どんな夜でしょう。 |
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益子にある登り窯。 人の手を拒むかのような風格で、 静かに窯焚きを待っています。 これから数日間、炎との格闘といわれる、 窯焚きが昼夜問わず行われ、 熱き転生が始まるのです。 |
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生まれゆく器が窯に入ります。 土や釉、炎の具合、灰の被り方、 作り手の思うところは如何にあり。 どのような風情を醸しだしてくれるのでしょう。 |
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窯焚きが始まります。 炎の按配を見ながら薪をくべていきます。 まだまだ序の口。 あらゆるものが静寂のなかにあります。 土と火が相対する焼きもの、 その誕生はまだ先なのです。 |
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夜半に煌く炎には、 えも言われぬ妙があります。 時の流れが垣間見えるほどの ゆるやかな月夜に、 荒ぶる炎が乱舞します。 |
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生命力が弾けゆく炎を内包しつつ、 自らも唸りを上げる登り窯。 人智が及ばない無常から生まれる 歓喜の時を期待しつつ、 ひたすらに焚き続けます。 |
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窯焚きから十日余り。 ようやく落ち着きを取り戻した窯には、 期待に違わない器が誕生しています。 幾日かの想いが凝縮している一瞬が、 今、ここにあります。 |
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美酒佳肴なればこそ。 自然を食し、自然に酔うものです。 ありがたき夜は忘れがたき夜。 今宵もまた、あたら夜なりて。 |
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