（湯島　日本酒＆本格焼酎処　月）

　魚を丸ごと喰らうという至福がある。この南蛮漬け、もちろん鯵の頭から尾までしっかりといただける柔らかさなのである。ひと口を噛みしめれば、さくりとほぐれる鯵の旨みと、まろやかな漬け酢が奏でる絶妙な調和が、その至福をより際立たせている。手間の掛かるひと品であるからこそ、手間を惜しまぬ料理人の心遣いが有り難い。食べ尽くすという言葉の通りにいただきたい。
　その素でありながらも深き味わいに手仕事の良さを感じつつ「真人」の温め酒を堪能する。馳走とは斯くもあるべきか。思い新たにする逸品である。

　出汁の利いたふくよかな香りは旨みの極致、否応なく食への期待は高まるのである。煮物という定番であるからこそ、その味わいは万別であるが、殊更に肴という括りで云うまでもなく、ここには旨みの機微がある。
　よく味の染みている鶏肉、我れもそして相伴する相手さえも旨みの虜にする椎茸、滋味深き人参、しゃきりとした歯応えと旨みの蓮根など、具材それぞれの味わいは突出することなく、さりとて消え入ることもなく抜群の妙味を見せる。彩られる絹さやの緑がまた美しい。芯を引き締める溜まり醤油がコクを出しつつ、濃厚に過ぎない味わいは絶妙に酒を進める。「芳水」の燗が居心地良い。